大学院・学部合同FD講演会(メンタルヘルス) 「学生とのよりよい関係を目指して」

 高等教育開発センターでは、平成20年11月7日(金)に、東京農工大学保健管理センターの早川東作先生を講師としてお招きし、大学院部門会議及びメンタルヘルス専門委員会との共催でFD講演会を開催しました。

 これは大学院設置基準の改正(平成19年4月1日)により大学院教育におけるFD(ファカルティ・ディベロップメント)が義務化されたことを受け実施し たものです。なお、今回の講演会は学生支援をテーマとしているので、大学院と学部の合同による講演会として実施しました。

 講演会は、教養教育棟32号教室(旦野原キャンパス)、医学部看護学科第211講義室(挾間キャンパス:遠隔講義システムによる配信)を会場として15時より始まりました。

 講演に先立って、西村センター長より本講演会のスケジュール説明と講師の早川先生の略歴紹介がありました。

 引き続き、嘉目教育担当理事より挨拶があり、本日の講演により、本学でのアウトリーチGPへの示唆を頂けるのではないかとの挨拶がありました。

 講演は、精神健康度測定の例として、森林浴によるリラックス効果をPOMS(気分プロフィールテスト)による数量化の例示と、講師の早川先生自身の学校メンタルヘルスの原点として「朋友を作る場としての大学」の機能に関する話題で始まりました。

 学生の実態とし て、学生の悩みに関するカウンセリング利用者の数が年々増加していることや、その相談内容が多岐にわたり、考えられる原因は「多元的」であること、従来で は入学後の早い時期に多かったカウンセリングが、最近の傾向では学年の進行に伴って増加していること、等が分かりやすく紹介されました。

 学生の悩みの原因の一要素でもあるハラスメントについても、解説がありました。ハラスメントという言葉は学術的なリファインを受けていないことや、ハラ スメント概念の由来について「パワーハラスメント」「アカデミックハラスメント」の初出の紹介がありました。また、最新定義として「アカデミックハラスメ ント」防止等対策のための『5大学合同研究協議会報告書2004、2005』が紹介されました。さらに新しい問題としてハラスメントの被害者と加害者の逆 転についても言及がありました。

 「メンタルヘルス不全」の学生への対応として、問題を教員一人で抱え込まないよう、情報を共有化すること、教員自身の人生観、教育観を学生に押しつけな いこと、現代日本では青年期は30才までと心得ておくこと等の提言もありました。学生に対する各大学の取組として『メンタルヘルス協議会平成17年度報告 書』(分科会助言者、大分大学藤田長太郎先生)から事例の紹介があり、この報告書が大変参考になるとのことでした。

 学生を理解するためには、多くの大学教員が経験した学生時代とは現在の学生達が置かれている状況を認識する必要があるとの観点から、文部科学省統計による 大学生の数と教員一人あたりの在学生数の変遷が示されました。近年においては、大学教員一人あたりの在学生数は、小学校のそれとほぼ同等であることから、 教員の負担も増えているとのことでした。

 最後に、講師の早川先生から、学生が受講する「教員心理」「生徒指導論」を大学教員が聴講し単位をもらう。教員自身の精神的健康維持とゆとりを回復する。授業評価だけではなく、個人指導や研究室経営による教員評価があってもよいのでは等の提案がありました。
 学生とのよりよい関係を築くためのたくさんの示唆をいただいた講演会でした。

 質疑応答の後、本学の保健管理センター所長寺尾英夫先生から、大変有意義なご講演をいただいたとのお礼の挨拶がありました。

 本講演会には旦野原キャンパス、挾間キャンパス合わせて36名の教職員の皆様に参加いただきました。忙しい中お集まりいただき、ありがとうございました。

  • 講演会配付資料(学内限定)(当日の提示資料と一部異なります。印刷はできません。)
  • 講演内容の特殊性に配慮し、本講演のオンデマンド配信は行いません。

講演会の後、講師の先生を囲んで、17時より約1時間の意見交換会を開催しました。当初、会場として予定していた学生センター会議室から、この10月にオープンしたばかりの「ぴあROOM」へと会場を変更して、和やかな雰囲気の中で意見交換会が進められました。

 意見交換会には、学生支援に直に係わる方々が主に集まりました。主な話題は、学生支援の現状の傾向、学生の気質の変化、実態に基づいた対応方法、相談窓 口の明確化、集団での支援体制のあり方といったもので、早川先生の助言をもとに、活発な質疑応答や意見交換がなされました。

 意見交換会には13名の方にご参加いただきました。講演終了後の遅い時間にもかかわらずお集まりいただき、ありがとうございました。また、急遽、会場を提供してくださった「ぴあROOM」の皆様にもお礼申し上げます。

今回のFD講演会の内容を受けて、保健管理センター 藤田長太郎先生よりコメントをいただきましたので、ここに掲載します。

早川先生がご指摘されたように、大学生の数も大学教員の数もここ数十年で急激に増えている。そうしたことを考えた場合に、多様となっているのは学生だ けではないことから教員と学生の関係も複雑になるのは自然な現象である。したがっていろいろなトラブルが生じやすく、「ハラスメント」を訴える側にも問題 があるケースもみられるようになっている。しかし、人間関係にトラブルはつきものであると考えて、そうした1つ1つの訴えに大学側がニュートラルに対応し ていくことが結局は大きなトラブルとなることを防止することにつながるのではないかと思う。

 また、裁判でも例えば過労死やハラスメントを認定する基準が時代とともに変わっている。そうした時にわれわれ大学教職員も「自分たちが受けてきた指導を 今の学生に行ってどうしてハラスメントになるのか」とは言えなくなることがある。自分たちの価値観を絶対視するのではなく、時代の変遷とともにスタンダー ドも変わっていくという認識を教職員がもつことが今の学生の理解や対応に、ひいてはハラスメント防止にもつながるのではないかと思う。

                                  保健管理センター  藤田長太郎

[参考]案内ページ

(文責)牧野 治敏
(編集)尾澤 重知

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